デンゼル・ワシントンがアカデミー主演男優賞を獲った『トレーニング デイ』はロス市警麻薬取締課に配属された新人刑事の1日を描いています。2001年公開。
相棒役のイーサン・ホークもアカデミー助演男優賞にノミネートされました。
1億ドルを超える興行収入を生み出し、アントン・フークア監督の出世作になりました。
『トレーニング デイ』作品情報
【原題】
『Training Day』
【監督】
アントン・フークア
【出演】
アロンゾ・ハリス:デンゼル・ワシントン
ジェイク・ホイト:イーサン・ホーク
ロジャー:スコット・グレン
サラ:エヴァ・メンデス
スタン:トム・べレンジャー
デンゼル・ワシントンのアントン・フークアの監督作品への出演は本作以外にも『イコライザー』シリーズ、『マグニフィセント・セブン』があります。またイーサン・ホークもフークア監督の2009年の作品である『クロッシング』に出演しています。
善良な人物を演じることが多いデンゼル・ワシントンですが、本作では打って変わって悪徳刑事を演じています。
『山猫は眠らない』シリーズでおなじみのトム・べレンジャーも出演していますね。
『トレーニング デイ』のネタバレと感想
強い使命感を胸にロス市警麻薬取締課に配属された新人刑事のジェイクと、荒っぽい手法を取ることに何のためらいもなく平然としている悪徳ベテラン刑事アロンゾの物語。
話しの流れにはテンポの良さが感じられ、映画が始まってからエンディングまでの2時間の間には中だるみを感じる瞬間はありません。
なんといってもデンゼル・“いつでも私は正しい”・ワシントンがモラルが欠如した人物を演じたことが印象に残ります。善良な人物でなくても素晴らしい演技ができることを証明してくれました。
対するイーサン・ホークは交通課から転属されたばかりの新人刑事を熱演。教科書どおりの正義感を持ったジェイクは、右も左もわからないままアロンゾの破天荒さに違和感を感じます。そしてその違和感はやがて憎悪に変わっていきます。
アロンゾは押収した大麻をジェイクに吸わせようとし、拒否すると拳銃で脅す。暴行されそうになっている少女を助けようともしない。ニセの捜査令状で家宅捜査をし大金を盗む。
アロンゾは正しさに則り行動しようとするジェイクに対し「お前の言ってることは間違っていないが、必要なら規則を破る」と語ります。アロンゾに言わせると彼なりの倫理があり、ジェイクはその言葉にそれなりの説得力をどこか感じているようです。
麻薬売人のロジャーとアロンゾは仲が良い様子です。ロジャーはジェイクにカタツムリのジョーク話を話します。男が玄関先でカタツムリを見つけた。カタツムリを拾い、投げ捨てたら石に当たり死にかけたが再度玄関に1年掛かりでたどり着いた。男は再びカタツムリを見つけ「ふざけるな!」と叫んだ。
オチもない話です。さっきまで機嫌が良かったアロンゾはそばで聞いていましたが全く笑っていません。もしかしたら男はアロンゾでカタツムリは街ではびこる犯罪者のことかもしれません。
ジェイクがアロンゾら悪徳警官とは違うことを象徴するシーンがあります。愛人宅から出た後、ロス市警のお偉方と会うためにレストランに出向きます。そこでジェイクは一人離れた席に座らされます。朝初めてアロンゾと顔を合わせたカフェでジェイクは面白い話ができずアロンゾを笑わせることができませんでした。ですがお偉方は簡単にアロンゾを笑わせます。
ジェイクは初めのうちは戸惑いつつもアロンゾに合わせようとしていましたが、綺麗事を信じているジェイクの心に次第にアロンゾに対しての軽蔑感が積もっていきます。
そしてアロンゾがトラブル解決のための金を得るために、数時間前まで談笑していたロジャーを射殺したことでジェイクの心は硬直してしまいます。友人のような関係だったのは仕事だから、ロジャーは死んで当然の存在とアロンゾは言いました。更にロジャーを殺した罪をジェイクに着せようとします。
ついにはアロンゾに騙されギャングに殺されそうになりますが、暴行から助けた少女がギャングの従妹とわかり命を取られずに済みました。
それまでなんとかアロンゾを理解しようと一縷の思いを抱いてましたが、死の恐怖を味わい完全に決別。追いつめたアロンゾの警官バッジをむしり取ります。
本作は本物のギャングの協力のもとで製作されており、ストリートのシーンも実際にギャングがいる場所とのこと。リアル感溢れる迫力を醸し出しています。
なお、従妹の危機を救ってくれたお礼にジェイクを逃がしたり、従妹は危険な地域には足を踏み入れないはずと言ってみたり、学校に行って授業に出席しているか電話で確認したりと、ギャングでも最低限の倫理感を持っていると窺わせるシーンもありました。協力してくれたことに対するちょっとしたお礼でしょうか。
まとめ
『トレーニング デイ』には観客が求めるスーパーヒーローは出てきません。純粋さを持っている頼りない新米刑事と手段を選ばないベテラン刑事。
しかもふたりは心を通わせることなく、最後はアロンゾはロシアンマフィアにハチの巣にされてしまいます。ジェイクもボロボロになりやっとの思いで我が家に帰り着くところで映画は終わります。
カタルシスを得られるような内容ではありませんが、作中のアロンゾの言動や行動において小さな意外性を積み重ね、観客にある種のスリルを与え続けてくれます。そしてそのことは同時に人間の内面の複雑さを描写しています。