『読みたいことを、書けばいい。』田中泰延著

読みたいことを、書けばいい。

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巷には文章テクニックの本が溢れていますが、本書をそれらのひとつのつもりで読み進めると少々肩透かしを食らうでしょう。文章を書くにあたって小手先のテクニックを学ぶよりも前に心得ておくべきことを、ユーモアを持って提示しています。

本書の所々に広告業界で培った鋭い表現と軽妙な言い回しが散りばめられており、すらすら読み進めることができますが、著者の言っていることは大真面目です。

書籍情報

【書籍名】『読みたいことを、書けばいい。』

【著者名】田中泰延

【出版社】ダイヤモンド社

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著者について

著者の田中泰延さんは大阪生まれで早稲田大を卒業後はコピーライター、CMプランナーとして広告代理店最大手の電通に勤務。24年間務めた後、2016年に退職しフリーランスになり、「青年失業家」を自称し執筆活動されています。街角のクリエイティブに「田中泰延のエンタメ新党」や「ひろのぶ雑記」を連載。

自分のために書く

本書では、「自分が読みたいものを書く」ことで「自分が楽しくなる」ということを伝えたい。いや、伝わらなくてもいい。すでにそれを書いて読む自分が楽しいのだから。

自分がおもしろくもない文章を、他人が読んでおもしろいわけがない。だから、自分が読みたいものを書く。
6ページより引用

著者が一貫して主張しているのは自分のために書くこと。なぜなら自分が読みたいと思うことを書くと、自分が楽しめる。そうやっているうちに、やがて自分を取り囲む現実を変えていく場合もあると言います。 

著者は実際に会社を退職した後、自分がおもしろいと思う文章を書いてきた結果、いままでとは違った世界に足を踏み入れる体験をしました。

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自分がおもしろがる文章を書くとは

文章を書く仕事を目指す人に多いのが、「ライターとして有名になりたい」や「文章が上手くなりたい」というもの。それらをスタートに設定していると、やるべきことがどんどんズレていってしまいます。なぜなら自分以外の他者を読者として意識して書いているからです。著者は文章を書く際には他人から褒められるのではなく、自分が気に入るかが重要と説きます。

自分が最初の読者であるならば、文章教室で指導されるようなターゲットの設定は不要です。また自分が読みたいことを他人がすでに書いてしまっていたら、それについては今更書き手になる必要はありません。自分が読みたいことを書くとは自分のオリジナルの意見を書く行為であり、コピーや真似ではないのです。

そして、多くの読者に認められて承認欲求を満たしたいのであれば、文章を書くのは遠回りな手段であることを述べています。世の中は理不尽で「何を書いたか」よりも「誰が書いたか」が評価されてしまいます。無名の人物が苦労して書いた傑作の出来の文章はほとんど読まれる機会はありませんが、有名人が書いたとりとめもない文章は多くの人々に読まれ影響を及ぼすものです。

書いた文章に対してたとえ反響があっても、中には相手にすべきではない理不尽なものもあります。逆に賞賛してくれた読者の期待に次も応えようとすると、自分が面白くなくなってしまいます。他人の評価に振り回される必要はないのです。

文章を書くにあたっては「ライターになって多くの人に認められたい」という気持ちを一度頭から追い払ったほうがよさそうです。

事象と心象が交わるところに生まれる文章

著者はネットで読まれる文章の9割が随筆であり、「事象と心象が交わるところに生まれる文章」と定義しています。そしてこの定義は本書に何度も登場します。

事象とはすなわち、見聞きしたことや、知ったことだ。世の中のあらゆるモノ、コト、ヒトは「事象」である。それに触れて心が動き、書きたくなる気持ちが生まれる、それが「心象」である。
55ページより引用

更に心象ばかり語る人はつまらない人間であり、他人に興味を持ってもらうには事象を示していく必要があると指摘しています。そしてその事象からファクトを浮かび上がらせ、心象が受け入れてもらえるのです。

そして随筆を書くための鉄則を挙げています。それはとにかく調べる、その際には一次資料にあたる、先人の功績に乗りすでに語り尽くされていることの先を書く、事象に対して心が動いたポイントを伝える、起承転結を意識して過不足なく書く、そしてなにより文章の中心に愛と敬意が重要である。

まとめ

著者は読者がこの本を読み終わったらアマゾンで1円で売ったりしないようにと、何度もゆるく釘を刺す素振りを見せていますが、それどころか手垢をたっぷりつけて書き込みで汚くしてしまうべき本です。

章間のコラムも充実しており、ページ数もおまけとは言えないくらい多く割かれています。内容も読み飛ばすようなものではなく油断ができません。例えば広告クリエイティブの考え方や就活での履歴書(エントリーシート)の書き方、志望動機の伝え方を、著者が本編で紹介してきた内容に則して説いています。

ブログを書くときは「事象に触れた際に生じた心象を書く」、これを常に念頭に置くべきでしょう。

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