『運び屋』ネタバレと感想

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もうすぐ90歳になろうという年齢にもかかわらず精力的に映画を撮り続けているクリント・イーストウッドの『グラン・トリノ』以来10年ぶりの監督主演作品です。

最近は毎年のように作品を世に送り出し続けているイーストウッドですが、役者としての出演は2012年の『人生の特等席』以来となります。

まだまだ元気、本作の役柄も含めていろいろな意味でまだ枯れていません。

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『運び屋』作品情報

【原題】
『The Mule』

【監督】
クリント・イーストウッド

クリント・イーストウッド

クリント・イーストウッドについて簡単に解説

2019-11-09

【出演】
アール・ストーン – クリント・イーストウッド
コリン・ベイツ – ブラッドリー・クーパー
メアリー – ダイアン・ウィースト
ラトン – アンディ・ガルシア
アイリス – アリソン・イーストウッド
フリオ – イグナシオ・セリッチオ
トレビノ – マイケル・ペーニャ
主任特別捜査官 – ローレンス・フィッシュバーン

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『運び屋』のネタバレと感想

運び屋

(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

宣伝の予告映像重すぎます

孤独な90歳の老人アール・ストーンは事業に失敗し、ひょんなことから「ただ車を運転するだけでいい」という誘い文句に惹かれ、マフィアの麻薬事業に手を貸すことになったという実際に起きた事件をモチーフにしています。

TVで流れていた予告映像を見ると重々しい雰囲気のサスペンスなのかと想像しますが、本作は全編拍子抜けするほど軽いタッチで描かれています。はっきりいって予告映像は重すぎで、その雰囲気を期待して見ると肩透かしを食らいます。

古い人間だが偏見を持たないアール

デイリリーという一日のうち数時間しか咲かないユリの栽培を手掛け、長年家族を蔑ろにしてきた彼は娘からは12年半も口をきいてもらえません。ですが高齢で白人でありその上違反歴もないことを見込まれ麻薬の運搬を手伝い大金を手にしたことで、それまでの罪滅ぼしをするかのように元妻や娘との絆を取り戻そうとします。

原題のMuleは頑固者という意味がありますが、イーストウッド演じる主人公はけっして偏屈で狭量な人物として描かれているわけではありません。

アールは肩肘張らず飄々としたキャラクターで鼻唄を唄いながら車を運転し、好き勝手に寄り道はする、ギャングの面々と打ち解けていく、はてにはコールガールを呼ぶなどやりたい放題。

元軍人で銃を突きつけられても動じない度胸と、誰とでも打ち解けられるユーモアも持っています。

運び屋

(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

彼の自由気ままな行動は麻薬捜査官も翻弄します。「タタ」というニックネームをつけられたアールの情報を捜査官たちは掴みますが、彼の足跡を追いかけることができず捜査は混乱します。麻薬組織の監視役はそんな自由すぎる彼にイラつき始末しようとボスに訴えますが、ボスも鷹揚というか話のわかる人物でアールのことを気に入ります。ついにはアールを自宅のパーティーに招待します。そこで彼は「この家を建てるのに何人撃った」とジョークをかましますが、ボスも笑って答えます。

主人公アールは毒舌ともいえる冗談や軽口ばかり言っていますがそれは相手との親しみの表れで、そのことは映画冒頭のシーンで雇っているメキシコ人とのスラングでのやりとりからも伺えます。

またインターネットや携帯といった現代のテクノロジーに嫌悪感を示す主人公ですが、メールのやり方を覚えようと努力もします。

バイクのメンテナンスをしていた大柄な人々に男性だと思い込み声を掛けたところ女性だったことに驚きますが、彼女らの存在を否定するような態度は取りません。またタイヤがパンクして道端で困っていた黒人一家を助ける際に思わずニグロという言葉を口にしますが、今はブラックと言うと諭されると素直にうなずきます。

また監視役のメキシコ人に偏見丸出しで職質してきた警官をアールは機転を利かせて煙に巻きます。

このようにアールは善良さと今となっては批判の対象となりうる古い習慣を併せ持つ人物として描かれています。そしてこのような主人公にイーストウッド自身の意思や主張が込められているように受け取れます。

現代にはびこるタテマエやポリコレに対する答え

イーストウッドの意思の表れはアールのセリフや行動だけに留まりません。それは他の登場人物にも託されています。

ハイウェイで警官から車を止められ職務質問されたドライバーが「人生でもっとも危険な5分間」と叫ぶところはこの作品の最も印象的なシーンのひとつでした。日本人には実感が湧きにくいのですが、非白人が警官に職質されることへの恐怖はいまだに偏見がまかりとおっている現実を表しています。もっとも映画では彼は罪を犯しているわけではなく、警官もフェアに対応していることを描くことによって白人と非白人のどちらか一方が悪いといった単純な主張をしているわけではありません。

運び屋

(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

ギャングの面々も悪人ではあるのですが、救いようも無い人間としては描かれていません。アールに荷物を渡すタイヤ屋にいるギャングたちとも初めは殺気立った雰囲気だったのが、アールと仕事をするたびに次第に打ち解けたやり取りをするようになります。新しいボスになったことでこれまでより一層厳しい監視に置かれて「お前は奴隷だ」と言われ、そのことを自虐的につぶやくとタイヤ屋のギャングから「そうではない」と言葉を返されます。

更にコワモテの新しい監視役もアールが元妻の葬式で連絡が取れなくなったという理由を知ると、厳しい新しいボスに理解を求めるような発言をして人間味を覗かせます。

はっきりいって本作にはリベラル派と呼ばれる人達には少々受け入れがたいセリフや描写も出てきます。

このようにイーストウッドは批判の対象になってしまうことを恐れずに、差別や偏見の上っ面の部分だけを取り繕いがちな今の社会の空気を皮肉るメッセージが本作から読み取れます。

もうひとつのテーマである家族

ユリの栽培を手掛けてきたアールは家族の信頼を失いかけていました。そのことを自覚し何とか取り戻そうとします。

アールはベイツ捜査官に偶然出会った朝のカフェで、家族に対してのアドバイスを送り自らは後悔を滲ませます。

12回目の仕事のときに元妻メアリーは病に倒れ、余命いくばくも無いと孫娘から連絡が入ります。仕事を優先させようとしたアールに、唯一の味方であった孫娘からも見放されそうになります。ですがメアリーの最期に駆けつけ、彼女から感謝されたアールは長年口を利いていなかった娘アイリスから許されます。

運び屋

(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

家族との絆を取り戻したアールですが、ベイツ捜査官らに逮捕され裁判では弁護人に言葉を遮って罪を認め刑に服します。刑務所ではデイリリーを手入れするアールの姿がありました。

最後に

ベイツ捜査官の上司役であるローレンス・フィッシュバーンがどうしても幻冬社の見城徹社長に見えてしまいました。

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