『クリード 炎の宿敵』を鑑賞してきました。
ロッキー世代にとって、まだこの時代になっても物語が続いているということは、なんとも感慨深いことです。
あの印象深いテーマ曲とトレーニングや試合のシーンは実生活で落ち込んだ時に何度も励まされました。
ロッキーシリーズは映画の持つ大いなるチカラの恩恵を個人的に最も降り注いでくれた作品のひとつです。
はっきり言ってロッキーシリーズは4で終わったと思っていて5は無理やりっぽいなと、そしてファイナルで強引にピリオドを打った感じでした。
さすがにスタローンの年齢を考えるとこれ以上の続編はないと思われたのですが、世代を子どもにシフトしてクリードシリーズが始まりました。
「クリード 炎の宿敵」作品情報
■原題
『CreedⅡ』
■監督
スティーヴン・ケープル・Jr.
■出演
アドニス・クリード-マイケル・B・ジョーダン
ロッキー・バルボア-シルヴェスター・スタローン
ビアンカ-テッサ・トンプソン
イワン・ドラゴ-ドルフ・ラングレン
ヴィクター・ドラゴ-フロリアン・ムンテアヌ
脚本家シルヴェスター・スタローン
脚本は前作の『クリード チャンプを継ぐ男』では監督も務めたライアン・クーグラーでしたが、今回の『クリード 炎の宿敵』ではスタローンが担当しています。
スタローンはロッキーシリーズでも脚本を担当していました。1作目こそ自分がただのゴロツキではないことを証明しようともがく若者を描いていましたが、以降はなんとなく単調さが漂っていました。
ロッキーシリーズでは続編でアポロの死、米ソの対立、愛弟子との確執と次々とアイデアを出しそれなりに楽しめました。
今作はカタルシスという点ではロッキーシリーズと比べると意見が割れるかもしれませんが、味わい深さではそれらを凌駕しています。
今作は話としては『ロッキー4』の流れを受けていますが、イワン・ドラゴの復讐劇とそれを迎え撃つチャンピオンという単純な構図にとどまらず、この映画の重要な要素としてアポロとアドニス、イワンとヴィクター、それとささやかながらロッキーとロバートの3組の父子の絆がこの作品に深みを与えています。
そしてロッキー父子の関係でいえば『ロッキー・ザ・ファイナル』の流れも受けています。
『クリード 炎の宿敵』のネタバレと感想
ではドラゴ、アドニス、ロッキーの3名について、それぞれ見ていきましょう。
復讐に燃えるイワン・ドラゴ
イワン・ドラゴについては『ロッキー4』ではサイボーグのよう扱いで感情描写はほぼありませんでしたが、今回は自分が失ったものを取り返すためにロッキーへの復讐に燃える人物として登場します。
ロッキーの店にはかつての写真が数多く飾ってありますがドラゴ戦の写真はありません。ドラゴがロッキーを訪れた時にそのことを言うのですがロッキーは「あんたのはない」とそっけない。そこでドラゴはあの試合に敗北したことですべてを失い人生を狂わされたとロッキーに告げますが、ロッキーからすれば勝負がついたうえでのことで、恨まれる云われはありません。
それは単にドラゴに対して憎しみを持っているからではなく、タオルを投げ入れずにアポロを見殺しにしてしまった後悔があるからでした。
上記の場面がドラゴが一番描かれているシーンなのですが、プロットありきのキャラクター設定となっているは当然なのですが、4とは違いセリフもあるのだから他のシーンも含めもう少しドラゴの人物描写に立体感というか人間味を与えてもよかったと思います。
アドニスの成長
今作で父と同じくチャンピオンになってアドニスですが、ビアンカにどうプロポーズするか悩みロッキーに相談したり、赤ん坊をうまくあやせなくてオロオロしています。
またヴィクターとの最初の対戦で完全に試合内容で負けてしまい、慰めに来たロッキーにツラくあたるなど大人になりきっていない態度をとります。
アドニスはヴィクター戦の後、自信と戦う理由を見失ってしまいました。しかし本当はこの試合の前から戦う理由を彼は持っていませんでした。アドニスが母にドラゴを戦うことを告げたときに、彼女から「自分や父親を言い訳に使わないで」と叱責されたことからもこのことは窺えます。
ロッキーはアドニスに「娘は自分のことを憐れんではいない。父親もそうあるべきだ」とこの映画の中でも心に残る言葉を掛けます。
やがてアドニスはなぜ戦うのか、彼の娘アマラを通じてそのことを悟りました。そして自分のため家族のために戦うとロッキーに告げます。
偉大なチャンピオン・アポロを父に持つアドニス。彼は父ができなかったことをやろうとして挫折してしまいます。ロッキーは「お前もこうなれた」などとアドニスが父を超えられないことを知っているかのような言葉を掛けますが、アドニスが戦う理由を見つけた時に彼がアポロを超えられることを確信しました。
アドニスが自分を見失った後、ロッキーに諭され何の為に戦うのか答えを見つけていく過程では、観るものへの押し付けがましさやわざとらしさがありません。
なぜ戦うのか、この理由を確信してアドニスはヴィクターとの試合に臨みます。
心優しいロッキー
ロッキー自身は自分を過去の人と認識していますが、フィラデルフィアの人々はバイクに乗っている地元のチンピラまでもが、いまだに特別な存在としてリスペクトしています。
かつてロッキーはアポロ対ドラゴ戦でタオルを投入せず、結果的にアポロを死なせてしまったことをトラウマにしています。なのでアドニスがヴィクターと試合をすると決まったときにはセコンドに付くのを拒否し、一旦はアドニスと決別してしまいます。
ですがアドニスのことを見捨てられないロッキーはテレビを試合を観戦し、破れて満身創痍となったアドニスをロスまではるばる訪ねました。アドニスに病院のベッドの上から心無い言葉をぶつけられても、感情的にならず受け止めたりその場を引き下がったりするロッキーは大人というより人の良い人物として映っています。
また、アドニスがヴィクター戦の勝利の後に、リングに上がらずロッキーが言った「お前たちの時代だ」というセリフはロッキーの終焉を暗示しているかのようでした。
エイドリアンの墓に寂しく語りかけたり病にかかったりと、ロッキー世代にとって弱ったロッキーを見せられるのは、時の流れる悲しさを否応なしに突き付けられます。ですがラストでロッキーもまだこれからの人生を見つめ直し、切り開いていこうとするシーンがあるのは、見る者が受ける悲しさを幾分か救ってくれます。
まとめ
クリードシリーズはストーリーとしては1作目と2作目の繋がりは希薄です。設定はもちろん連続しているのですが、1作目を観ていなくても2だけで楽しめます。
ロッキーシリーズで観ておくなら、やはり4です。
ロッキーからクリードまで一貫してクライマックスの試合のシーンと同じくらい印象に残るのがトレーニングシーンです。前作の『クリード チャンプを継ぐ男』ではロッキーシリーズへのオマージュが見られましたが、今作では新たなテイストで描かれています。
このクリードシリーズの主題は「受け継ぐモノと親子の絆の再生」ではないかと感じました。
クリードは妻と生まれた子供を伴いアポロの墓の前でこれからの未来を誓い、ロッキーは避けてきた過去の人生に改めて向き合う姿勢を見せ息子のロバートを訪ね、ドラゴ父子は新たにトレーニングに励みます。
最後に、個人的にはタオルを投げ入れた時のドラゴの心の描写がもう少しほしかったです。