この映画の公開予告を見た時点でレディガガの歌の上手さが堪能できる作品だろうとくらいに解釈していたのですが、実際に鑑賞したらそれだけの作品ではありませんでした。
ガガの演技力については鑑賞前の不安を忘れさせるほどのレベルでしたし、ブラッドリー・クーパーも渾身の名演を見せてくれます。
見終って改めてガガの歌唱力の高さを再認識させられました。
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『アリー スター誕生』作品情報
■原題
『A Star Is Born』
■監督
ブラッドリー・クーパー
当初クリント・イーストウッドが監督を務める予定でした。
■出演
アリー – レディ・ガガ
ジャクソン・メイン – ブラッドリー・クーパー
ボビー – サム・エリオット
ロレンツォ – アンドリュー・ダイス・クレイ
ヌードルズ – デイヴ・シャペル
レズ – ラフィ・ガヴロン
オリジナルは1937年の『スタア誕生』
本作は1937年にウィリアム・A・ウェルマンが監督した『スタア誕生』の4作目のリメイク作品となります。
簡単に羅列してみます。
1937年『スタア誕生』
監督 ウィリアム・A・ウェルマン
出演 ジャネット・ゲイナー、フレドリック・マーチ
1954年『スタア誕生』
監督 ジョージ・キューカー
出演 ジュディ・ガーランド、ジェームズ・メイソン
1976年『スター誕生』
監督 フランク・ピアソン
主演 バーブラ・ストライサンド、クリス・クリストファーソン
『アリー スター誕生』のネタバレと感想
2月の下旬にアカデミー賞がありますが、圧巻の演技を魅せたクーパーに主演男優賞は行くでしょう。監督賞にはノミネートされていないようです。
※主演男優賞は「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレックが受賞しました。
クーパーはこれが初の監督作品というだけではなく、脚本、製作も手掛けています。
彼のキャリアにおいて、間違いなく重要な作品となるでしょう。ほんとうに底知れない才能を見せ付けられました。
音楽映画としての魅力
冒頭のBlack Eyesでは力強いヴォーカルと感情表現豊かなギターを聴かせ、観ている側に臨場感がたっぷり伝わってきます。
圧巻のライブシーンでこの映画の音楽的な演出が成功していることを早くも予感させられました。
またガガが口パクに否定的な立場をとったため 、ブラッドリークーパーはこの映画のために音楽経験がほぼなしの状態から練習重ね、ミュージシャンはだしのレベルまでもってきました。
ガガの多彩な音楽的一面を覗かせる箇所が二人が出会うシーンであります。クーパー演じるジャクソンがライブの後、酒を飲むためにたまたま入ったドラァグバーでガガはエディット・ピアフの名曲「La Vie en rose」を唄い、シャンソンもこなせる実力を見せてくれます。因みにこのドラァグバーでのオネエたちの会話は翻訳の妙もあると思いますが、テンポの良い絶妙な掛け合いを展開しています。
主題歌「Shallow」はアリーがジャクソンにライブに自家用ジェットで招待され、いきなりステージに上げられたところで披露されます。もちろん映画のハイライトのひとつとなっています。
歌手という設定はガガにはこれ以上ないほどの役柄であるのは間違いありません。
ガガの歌唱シーンは有無を言わさずパワフルであり、説得力があります。
トニー・ベネットとも張り合えるほどのガガのヴォーカリストとしての力量が窺い知れました。
ややもするとつまらないボーイミーツガールになってしまう内容を質の高い音楽と演出でこの作品を引っぱり上げています。
アリーの成功とジャクソンの凋落
クーパーはオリジナルのプロットを生かしつつ、そこにレディガガがこれまでたどってきた経歴をうまく投影していました。
曲を売り込み行くたびに 歌は認められるものの容姿をけなされ、それがコンプレックスになっているアリー。ですがアルバイト先の上司から怒鳴られたり、ジャクソンといたバーで商売女と言った相手を殴りつけたりと、自分に誇りを持って生きています。
やがてアリーはジャクソンにライブに招待されます。そこでジャクソンに半ば強引に促され意を決してステージに出た瞬間、アリーはスターへの階段を一歩踏み出しました。
前半のバーでの出会いやライブステージにいきなり上げられるなど、話しがトントン拍子に進んでいくところなどご都合主義に思えます。これはあえてストーリーの流れを断続的に繋げているので、余計にそうその印象が強まります。
レズカヴランに認められデビューしてからのアリーは売れるためにそれまでのスタイルから売れ筋路線に変更します。ジャクソンはそれを見てを苦々しく思っているように描写されていますが、このあたりに製作者(クーパー?)の音楽的主張が読み取れます。実際、ポップ路線の唄はスクリーンを観ているこちら側に音楽のパワーがうまく伝わってきませんでした。つまり音楽の使い分けができています。ですがこの記事ではあえてロック重視、ポップ蔑視についての音楽論は語りません。
アリーがジャクソンと出会ったことで成功のチャンスを掴み成功の階段を駆け上がっていくなかで、かつてのスターであったジャクソンの運命はゆっくりと下降線をたどります。アリーとジャクソンの人生は反比例の線をえがいていますが、はじめアリーは気づいてないように見受けます。一方、ジャクソンは徐々に自滅の道を進んでいきます。
この映画はよくありがちな二人のすれ違いを描いているわけではありません。言い争いはありますが、激しく喧嘩をするのはアリーが入浴中にジャクソンが君は醜いと言ったところくらいで、あとは二人の絆が垣間見えるような描写が散りばめられています。
ガガとクーパーは役の上だけでということではなく、本当に心からお互いに信頼関係を築いているのであろうことが画面から伝わってきました。
二人の素晴らしいパフォーマンスに目が行きがちですが、この作品は二人のお互いへの愛情にフォーカスしたつくりになっています。もちろん音楽映画としての側面も高く評価されるべきことですが、本作はまぎれもなく恋愛映画といってよいでしょう。
ジャクソンの苦悩と決断
ジャクソンは父への崇拝にも似た想いを持ち、その父への過剰なまでの想いから生まれる歳の離れた兄と確執を生んでしまいます。ついには兄が父の墓がある土地を売ったことを知ったため仲違いし、兄はジャクソンのもとを去ってしまいました。
ジャクソンのアル中はこの映画の最後までついて回りますが、最初のシーンで酒と薬を煽ってから演奏をはじめることで彼が中毒であることがわかります。
序盤で店を探しているときに、車窓越しに映る首吊りの縄のネオンは彼の最後を暗示しています。
彼には難聴というハンディがあり酒に溺れてしまいますが、兄以外の他人にはおおむね寛容な態度で接し、彼の善良な心根を表しています。
また自分の落ち目を自覚しながら、アリーの成功に対しても祝福しつつも嫉妬を抱きますが、ケーキを彼女の顔になすりつけることで屈折した心情を表現しています。
やがてグラミー賞で失態を犯すなどジャクソンの症状は悪化の一途をたどり施設へ入所しました。そこに見舞いに来たアリーに、ジャクソンはかつて彼女を傷つけたことに対し涙を流して謝ります。
施設を退所後、兄に対しても侮辱した言葉を放ったことを後悔する言葉を口にし和解します。
ジャクソンの運命が好転したかと見えたところで、アリーのマネージャーのレズが自宅に訪ねてきました。
彼はジャクソンがアニーの成功の邪魔になるとしか考えていません。そして、立ち直ったかに見えるジャクソンに「今飲んでいる水もそのうち酒に変わるだろう。 そうなったらアニーと別れてくれ 」と辛辣な言葉を浴びせます。この映画では余計な説明を省いた編集で話が淡々と進む印象を受けるのですが、ここはその後にジャクソンが心を決める決定的なセリフとなっています。
ツアー最終日、アリーはジャクソンにコンサート会場に来てと頼みます。その場所こそがジャクソンがもっとも輝く場所であることをアリーは知っているのです。アリーが会場へ向かうときジャクソンは彼女を呼び止め、この世で見る最後のアリーの姿を目に焼き付けます。一方ジャクソンの決心を知らないアリーは彼が再出発できることを嬉しく思いポーズを決めます。
昔自殺を試みたことがあったが失敗したと、かつて施設でカウンセラーに笑い話をしましたが、今回は失敗しませんでした。
ラストでアリーはジャクソンの追悼公演で彼のために唄います。
この瞬間、スターが誕生しました。
まとめ
歌唱力に定評のあるミュージシャンが観衆を魅入らせるほどの演技を披露し、実力抜群の俳優が聴衆を引き込む音楽を奏でるウェルメイドな作品です。
ガガとクーパーの圧巻のパフォーマンスはこの作品を更なる高みに押し上げました。